日曜の午後すなわちマチネ公演で、「恋に狂ひて」という人形劇を見てきました。
横浜ボートシアターは…
1981年に横浜JR石川町駅前の運河に浮かぶ木造はしけを劇場として活動を開始した劇団で、現在は鋼鉄製の船劇場で創作活動を行なっています。
当公演は両国のシアターX(カイ)という劇場での公演もありましたが、ボクはせっかくなら彼らの本拠地である船劇場で観たいと思って、こちらのチケットを買うことにしました。
演目は、横浜ボートシアターの代表作とされる仮面劇「小栗判官・照手姫」に続く説経シリーズの第二弾とのこと。
「小栗判官・照手姫」は1984年に上演され、脚本と演出で紀伊国屋演劇賞を受賞しています。
役者が仮面を付けて演じる「小栗判官・照手姫」に対して、今回は役者が人形を持って演じることになりました。
そのために“人形劇”という位置付けたようです。
説経は説経節とも呼ばれ、日本の中世時代に起こった民衆芸能のひとつです。
近世に入ると小屋掛けで人形芝居とともに演じられることもあったということから、今回の横浜ボートシアターの上演は往時を再現する興味深いものであったと言えるでしょう。
あらすじは以下のとおり。
平安時代、嵯峨天皇の御世。公家二条蔵人清平の一人息子「愛護の若」は、母の命と引き換えに授かった観音の申し子であった。しかし継母「雲居の前」に懸想せられ、父親からもうとまれ、霧降の滝に入水自殺してしまう。雲居の前も愛護の若の父に簀巻きにされ滝に入水。後に龍の姿となり「愛護の若」の死骸を頭上に載せ現れる。そして、愛護の若に関わった人々108人すべてが霧降の滝に身を投げ、果てるのであった。
船劇場ですから、当然、水辺にあるわけです。
場所は諸事情により「非公開でお願いします」と劇団側から申し渡されていますので、詮索しないようお願いしますね。
この写真はイメージをお伝えするためのもので、船劇場と関係あるかどうかは明記できませんのでご了承ください。
劇場に到着。ほ、本当に船だぁ(笑)。
船内にはちゃんと客席がしつらえてありました。
靴を脱いで入場。座ってしまうと、都内の小劇団系シアターよりもちゃんとした感じです。
船の外観はNGでしたが、客席ではOKのようだったので、記念写真をパチリ。早めに行ったので、最前列を確保しちゃいました。
目の前で繰り広げられた迫力ある芝居を堪能。
ちなみに、この船劇場にはトイレがなく、数百メートル離れた埠頭の公衆トイレを利用しなければなりませんでした。
その旨の注意を先に聞いていたので、駅で済ませて、終演まで大丈夫でした。
エンディングで舞台に並べられた人形たち。
高さはおよそ50センチ。稼働部分はほとんどありません。
それぞれの役を演ずる役者がこの人形を持って、劇を進行させます。
解説によると、南インドに伝わる指人形劇に触発されたスタイルとのこと。
もちろん指人形よりも人形は大きいものですが、舞台を広く使う演出を可能にするための巨大化だったのではないでしょうか。
物語は、節付けと弾き語りを担当した説経節政太夫の語りと、それぞれの人形を操る役者の台詞、そしてエレクトリック・ギターとパーカッションによる演奏によって進められました。
ギターとパーカッションのBGMは効果音的なものも絡めていましたが、基本的にメロディのわかりやすいもので構成され、説経節の節回しにリンクして伴奏を兼ねるなど、おもしろい演出になっていました。
おそらく説経節政太夫の三味線語りだけでは伝承芸能色が強いところを、そこに現代性を混ぜて中和させるいいアイテムとして機能していたと思われます。
劇としては、仮面劇から進化させた人形劇というチャレンジになっていて、その点を評価するには少し踏み込みが足りなかったことは否めないと思いますが、中世を舞台にした理不尽さや現実離れしたストーリー(観音様や閻魔様、龍といった存在の表現)にとって人形を使う演出は効果的だったと思います。
人形劇側にとっても、現代の小劇場系劇団による役者劇とのコラボレーションの可能性を示した、エポックメイキングな芝居になっていたのではないでしょうか。