この記事をざっくり説明すると……
にっぽんの芸能(Eテレ2017年5月1日再放送)のメモです。
今回は次の3名人を紹介。
六世鶴澤寛治/豪快
四世鶴澤清六/シャープ
二世野澤喜左衛門/情景描写
演劇評論家 渡辺保さんによる解説。
文楽=太夫、三味線、人形
人形による演劇+浄瑠璃という語りと音楽(物語をもった音楽)
文楽で使われる音楽は義太夫節
竹本義太夫(1651-1714)が創始者
義太夫節は太夫の語りも大事だが、三味線の音色が文楽の世界、ドラマの世界、出てくる人間たちの性格というものを規定してしまう。
三味線がすべての文楽という世界をリードする楽器。
文楽の三味線は太棹。棹が太いだけではなく、楽器そのものが大きい。
その理由は、物語の多様性に対応するには高音部も低音部も大きい音も小さい音も両方出なければならない。いろんな音を出すために楽器が大きくなっていった。
紹介する3人は明治生まれ。人間国宝。
文楽の三味線でいちばん大切なことは、物語の情景描写、状況、そこに登場する人物の心理といったものを含めて「物語を語らなければならない」という役目を負っている。
文楽の世界では、「模様を弾く」という。音が綺麗だ、美しい、楽しい、という以上に文楽の三味線はなにかを語っていなければならない。
人形遣いには3段階あり。
1. 生きているように、人間らしく見えること。
2. 人形だから可能な、人間にはできない動きをする。
3. 心を表現する。
六世鶴澤寛治
体つきは小柄で華奢だが、三味線を弾き出すとその音は豪快そのもの。テンポの良さ。音の洪水。
叩きは腕が強くなければならないが、寛治は「芸の腕が強い」と言われた。その音の強さで、寛治は武将の悲劇の時代ものを得意とした。同時に、弾いていて自己陶酔するところがあり、自分の弾く音に乗っかることがあった。それが聴いている人間に移る。それはテンポの良さゆえ。
(映像)一谷嫩軍記 組打の段(昭和37年放送)
浄瑠璃 四世竹本津太夫
三味線 六世鶴澤寛治
四世鶴澤清六
豊竹山城少掾の相三味線をずっと弾いていたが喧嘩別れでしばらく休業して、復帰。山城少掾の合理的でリアルな近代的な三味線の相手方をしていたので、非常に正確、原作に忠実、しかも初演で語った太夫のの芸風に近づこうという姿勢をもち、その意味での冷静沈着な三味線を弾く人。弾き姿も美しくて、音もシャープ。完成度が高い。なにを弾いていても動じない。陶酔型の寛治とは対照的。
(映像)新版歌祭文 野崎村の段(昭和31年放送)
浄瑠璃 三世竹本春子太夫
三味線 四世鶴澤清六
後半は三味線の連れ弾きとして有名な場面。二世鶴澤道八、鶴澤正一郎入る。
二世野澤喜左衛門
柔らかく色気のある三味線を弾く人。叩きも息も強いが、それを感じさせない。シチュエーションや登場する人物の心理を表現するのに長けている。時間による空気感の違いまで弾き分ける人。
(映像)菅原伝授手習鑑 寺子屋の段
浄瑠璃 四世竹本越路太夫
三味線 二世野澤喜左衛門
三味線はポツンポツンと聞こえても、息で繋がっている。二世野澤喜左衛門はさりげないところで感情を出す。三味線は太夫が語っていないところでも息を詰めて芝居をしている。そうでなければ次の音が出てこない。二世野澤喜左衛門の音には潤いがある。衒いがない。「いろは送り」は文楽屈指の名場面。
まとめ
文楽の三味線は単なる伴奏ではなく、その作品のドラマに深く関わり、同時に音楽をまとめる力をもっている。それらが一体化したときに、言葉や理屈では説明できない世界が生まれる。それが文楽のおもしろいところ。