日経電子版で読んだ「髪結い自在 役柄ピタリ 人形浄瑠璃文楽の床山」という記事の紹介です。
文楽では現在、床山と呼ばれる髪を結う仕事をしているのが、2名いるという導入です。
大阪と東京という説明が付いていないので、これは文楽全体で「2人しか存在しない」ということなのでしょう。
誰の髪を結うのかといえば、もちろん文楽人形。
人形とはいえ、ちゃんとカツラとなっているので、結わなければならないわけです。
特にここで取り上げている「鷺娘」という演目では、クライマックスで髪がパラリとほどける場面があるので、そのための準備を床山さんが責任をもってやらなければならないということ。
そういえばもうだいぶ昔、京都へ遊びに行ったときだったと記憶していますが、サンボアという老舗のバーに立ち寄ったとき、なぜか東京の床山さんが来ていて、いろいろ話をしたことがありましたっけ。
その人は人の髪を結う仕事でしたが、理容師や美容師とも違うテクニックが必要で、それ自体が古典芸能みたいだなぁと思ったことを覚えています。
髪結い自在 役柄ピタリ 人形浄瑠璃文楽の床山
匠と巧大阪で生まれた人形浄瑠璃文楽。太夫の語りと三味線の演奏に乗って、人形遣いが操る人形が様々な役を演じる。この人形の身分や階級、年齢といった役柄を決定づけるのに重要な役割を果たすのが髪形だ。文楽では現在2人の女性が床山の仕事を担っている。
4月中旬、国立文楽劇場(大阪市中央区)で床山の仕事を見せてもらった。用意していたのは「鷺娘(さぎむすめ)」という演目に用いる人形。人形の鬘(かづら)は、人間と違って頭全体を覆うのではなく、前髪と左右の鬢(びん)、後頭部下方をぐるりと囲むような格好で毛髪を縫い付けた銅製の台金が打ち付けてある。頭頂部には毛はない状態だが、くしを器用に操って髪に膨らみを持たせ、10分ほどできれいな髷(まげ)ができあがった。
娘の姿となった鷺の精が雪の中で踊る「鷺娘」は、クライマックスで結った髪を一瞬でほどいて感情の高ぶりを示す「さばき」という演出がある。このため、髪を直接結うのではなく、後頭部に仕込んだ金具に元結を巻き付けるようにしてある。金具を抜くとバサリと髪がほどける仕掛けだ。
「毎回舞台の上で、きちんと髪がさばけるか。しくじったらダメという緊張感がある」と話すのは文楽の床山になって約30年の高橋晃子さん。髪をさばく時は、公演が終わるごとに人形が床山の部屋に戻され、髪を結い直して人形遣いの手に渡す。正確さと手早さが求められる仕事だ。
文楽で用いる人形の首(かしら)は立役(男役)が約40種、女形が約20種ほど。同じ首でも、顔色や化粧、衣装、そして髪形を変えることでがらりと印象が変わり、さまざまな役柄に対応できる。例えば「お福」という女形の首。ふっくらとした顔立ちで、主に三枚目の役柄に使われる。この首に、下げ髪を輪に結んで輪の一方を外した「片はづし」の鬘をつければ、宮中に仕える奥女中。「文金」という鬘をつければ若い娘になり、「釣女」の醜女(しこめ)などに使われる。
人形の髪形は立役で80種類、女形で40種類ほどあり、日々の仕事をこなしながら覚えていくのだという。「一通りの髪形と出合うのに10年はかかる」(高橋さん)といい、床山として一人前になるまでに約10年。だが、めったにかからない演目もあれば、新作などで新しい髪形を考案することもある。「これでいいということはなく、一生勉強」
日経電子版
文楽劇場や東京の国立劇場での定期公演のほか、春秋の地方巡業、各地のミニ公演など、毎月どこかで公演がある。1公演につき40~80程度の首を使い、その一つ一つに鬘が必要だ。文楽の床山は高橋さんと後輩の八木千江子さんの2人だけ。「1日に1人が1つの鬘を仕上げるだけじゃあ間に合わない」といい、常にフル稼働状態という。「人形に魂を込めるのは人形遣いの仕事だが、結った髪が一緒に芝居している。それが楽しみ」と高橋さん。舞台を支える、職人の心意気を感じた。
(小国由美子)