2021年6月 東京・池袋 東京芸術劇場シアターウエスト
結城座旗揚385周年記念公演第一弾
結城数馬改め十三代目結城孫三郎襲名披露公演
番組では襲名披露狂言の「伊達娘恋緋色鹿子八百屋お七」の一部も紹介。浄瑠璃も糸あやつりの人形で表現する結城座ならではの伝統芸を見せてから、シェークスピア喜劇の舞台を日本の福島に置き換えた「十一夜」に入るという趣向。
翻案・演出の郵義信さんによれば、このシェークスピア劇を日本にアレンジする着想は東日本大震災のときに得たもので、おそらく双子の兄と妹が船の難波で別々になってしまうことからの連想なのだろうが、とてもよく回収された翻案になっている。しつこいぐらいのギャグが鄭さんのオハコなのかもしれないが、最初は引き気味だったのが終盤はだいぶハマって、そのあたりは十三代目の反応と同じだったのかもしれない。
結城座は“出遣い”という人形遣いが見えるかたちで人形を繰り、客演者の芝居と人形芝居が混じり合うという独得のスタイルをとっている。
2021年にNHKBSPで放映された山口小夜子客演の「ペレアスとメリザンド」(1992年公演)を観ていたので知らないわけではなかったが、やはり慣れてストーリーに没入するまで少しのタイムラグがあった。
人形劇全にそうではあるのだけれど、この”人形が人間として認識できるまでのタイムラグ”こそが人形劇を見る醍醐味なんじゃないだろうか。
結城座の発祥は徳川家光の時代で、代々の孫三郎は時代を反映したスタイルを用いて大いに人気を誇ったようだ。結城座のプロフィールについては『結城座への招待状』(文・しみずひろよし、監修・結城座、ネット武蔵野)を参照した。
「十一夜」では、客演の植本純米さんの熱演に引き込まれ、縮尺の異なる人形との境目がなくなっていく。
男性の人形遣いが女性を演じ、女性が男性をと、十三代目が兄と妹の二役を演じ分けるのを補完するような配置もおもしろい。
直近でレオナルド・ディカプリオ主演の映画「ロミオジュリエット」(1996年)を観ていて、ずいぶん軽快なテンポの演出でコメディ仕立てだなぁと思っていたのだけれど、シェイクスピア作品の根底に流れる講謔という要素を考えると、ディカプリオ版もこの「十一夜」も作品の本質をシッカリ突いていることになるのだろうか。
ちなみに鄭さんの番組用に撮ったインタヴューでは、「十二夜」を「十一夜」にした理由について、3.11の東日本大震災への想いを表したと述べていたが、その想いはラストシーンで頂点に達する。そう、ヴァイオラとセバスチャンの”再会”はこの世のことではなかったのかもしれない。
しかしそれは、幸せな邂逅だったのだと思わせてくれる。
ああ! そういう意味では、「ロミオとジュリエット」も、来世で結ばれることを願ってという隠しテーマになっているのだろうか。
十一夜 あるいは星の輝く夜に
原作 W. シェークスピア「十二夜」
翻案・演出 鄭義信
人形デザイン(頭)伊波二郎
衣裳(人形・人間) 太田雅公
音楽 久米大作
舞台美術 稲田美智子
照明プラン 増田隆芳
音響プラン 藤田赤目
舞台監督 吉木均・岸川卓巨
演出助手 柴田次郎
擬闘 栗原直樹
方言指導 中山陽子
宣伝美術 小田善久
宣伝写真 石橋俊治
十三代目結城孫三郎
結城育子
湯本アキ
小貫泰明
大浦恵実
中村つぐみ
三代目両川船遊(十二代目結城孫三郎)
客演 植本純米